世界中に安全な水を届ける仕事:NPO WaterAid Japan〜アトラス日記 vol.2〜

こんにちは、スマートニュースの望月です。アトラス日記 vol.2をここにお届けします。(「アトラス日記」はSmartNews ATLAS Programを通じて支援しているNPOについての連載記事です。)

今回は浅草からほど近い本所吾妻橋にオフィスを構える特定非営利活動法人(NPO法人)ウォーターエイドジャパンでお話を伺ってきました。ウォーターエイドは1981年にイギリスで設立され、現在はグローバルに活動している非政府組織(NGO)です。昨年は世界中で200万人もの人に安全な水を届けるほどに、活動の規模が広がっています。

watreaid_logo_720

イギリスからアメリカやオーストラリア、スウェーデンなどに活動の拠点を広げてきたウォーターエイドは2013年に日本法人を設立しました。ウォーターエイドの活動の狙いや特徴について、ウォーターエイドの高橋事務局長と立花さんにお話を伺ってきました。

atlas2_01左から高橋事務局長、弊社中井、立花さん

安全な水がない、適切なトイレがないということ

ウォーターエイドが世界中で取り組んでいるのは、安全な水とトイレなど適切な衛生施設の供給、そして石けんで手を洗うといった衛生に関する習慣の教育です。ウォーターエイドが水を大切にしている理由を高橋さんが教えてくれました。

atlas2_02WaterAid/ Mani Karmacharya

「グローバルなNGOにもいろいろなものがあります。私たちは水が一番大切だと信じるから水と衛生に関する支援を行っています。村に安全な水がないということはもちろん健康上の被害が大きいことを意味します。でもそれだけではありません。例えば、村に水がないので、子どもが遠くの川まで何時間もかけて水を汲みに行かなければならない。それによって学校に行けなくなってしまうということも起きます。あるいは、農業を営むのにも水が必要です。農業ができれば作物を市場で売って生活のレベルを上げていくこともできるかもしれない。水がないということはこうした色々な可能性を奪ってしまいます。これらはあくまで一例でしかありませんが、水は人間の生活の基盤であり、自立した生活のために絶対必要なのです」

こうした視点は、2016年以降を見据えた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」における17個の目標の一つとして、「きれいな水と衛生」(下記図表の6)が掲げられているように、世界的に水に関する問題が認識されていることとも強く呼応しています。

atlas2_03(参照:UNDP

しかし、ウォーターエイドによれば、世界で6.5億人が安全な水を利用できず、23億人が十分な衛生設備のない状態で暮らしているというのが現状です。結果として毎日1400人もの子どもが下痢で命を落としています。問題が認識されていたとしても、まだまだ目標と現実の間に大きなギャップが存在しています。そして、そのギャップを埋めることが、ウォーターエイドのミッションなのだと思います。

政府と住民のほかにNGOが存在する意味

高橋さんのお話を伺っていて強く感じたのは、水やトイレの問題はまずもって、その国や町の「政府」とそこに住む「住民」の問題であるというウォーターエイドの考え方です。住民には安全な水を飲む権利がある、そして政府にはその水を提供する責任がある、こうした関係です。しかし実際にはこの二者だけで問題解決にいたっていない。そこにNGOが入っていかざるを得ない余地が生まれてしまう現状があります。

「途上国の政府関係者と話をすることがありますが、彼らは安全な水へのアクセスがとても大切であること自体は理解しています。しかし、資金やキャパシティの面からしっかりした戦略やプランを立てることが難しく、水や衛生分野がなかなかその国の優先事項にされない、ということがあるようです。私たちが数年前に行った調査でも、多くの国で水や衛生分野への投資はほかの分野に比べてとても少ないということがわかっています」

そうした状況に対して、実際にウォーターエイドはどのようなアプローチで問題解決に取り組んでいるのでしょうか。

atlas2_04WaterAid/ Anna Kari

「その場所のニーズ合わせた多様な支援を行っています。一般の方がイメージしやすい『井戸をつくる』ということももちろんやっています。掘削井戸という50~100メートルほどの深さの井戸を掘るんですね。それ以外にも雨水を貯める装置を作ることもあるし、川からパイプで水を引いてくることもある。その場所の状況やニーズに合わせた施策を打っていきます」

ただ、問題はそれだけではない、と高橋さんは言います。

「政府や国連、NGOなどが覚悟を決めて井戸を作ったとしても、継続的なメンテナンスがなければすぐに壊れてしまいます。アフリカでは既存の井戸の3〜5割ほどが壊れていて使い物にならない状態だとも言われているんです。今でも多くの人に安全な水が行き渡っていない大きな理由のひとつがここにあります。住民が継続的に自分たちの問題として水や衛生設備の維持に取り組む、そこまで持っていかなければなりません」

住民と政府をともにエンパワーしていく

ウォーターエイドは現在31カ国で支援活動を展開していますが、各国の職員はすべてその国で採用しています。さらに、現地の人々を直接的にサポートするのではなく、現地のNGOをサポートすることで、間接的に住民を支援するアプローチをとっています。

「水と衛生のニーズを抱えているのは住民のなかでも弱者であることが多い。例えば水汲みをするのは女性や子どもです。トイレがなくて困るのも女性。高齢者や障がい者もきちんとした衛生設備がないことによる不都合を被りやすい状況にあります。さらに、彼女たちはその村や地域でしか使われていないローカルな言語しか話せないことも多いし、よそ者がいきなり入っていっても村の規範上話す許可が与えられないことも多い。民族や宗教も多種多様です。そこで、現地の人間自らがサポートできる能力を持つことがとても重要なのです。最終的にはウォーターエイドから現地のパートナーNGOが自立していくことが望ましいと考えています」

atlas2_05WaterAid/GMB Akash/Panos

現地の人々自身が自ら考え、水や衛生環境を改善し、維持していく。住民と政府だけで問題解決ができるように、近すぎず遠すぎずのサポートをひねり出していきます。

「バングラデシュのダッカという都市にあるスラムの話です。そこには水が通っていませんでした。しかし、すぐ隣のエリアは水道設備が整備されていた。ウォーターエイドはこのとき、スラムに住んでいる住民たちを組織化して、スラムまで水を引くための地元政府との交渉を支援しました。きれいな水が飲めるということは、どこに住んでいようともバングラデシュの国民が持つ権利である、そうした権利意識の醸成から始めて、実際の政府との交渉は住民たち自身が行い、水道をスラムまで引くことに成功しました」

atlas2_06WaterAid/ Abir Abdullah

このように現地の住民やNGOをエンパワーしていくという考え方は、もう一つの重要なアクターである政府に対しても同様です。

「現地の政府が抱えている問題は多様です。お金がない、水と衛生分野に関する経験やスキルを持った人材が不足している、担当省庁が不明確である、長期的なビジョンやプランがない、など。しかし、本来は彼らが自らの責任を果たしていく必要がある。そのために、ウォーターエイドは、『この村でこういうことをしたらこんな成果が出ましたよ』ということを、きちんと現地政府に伝えていきます。モデルケースを実際に横展開していくのは政府にがんばってもらう必要があります。彼らにとって参考になる効率的なモデルケースをつくっていくことが私たちの仕事だと思っています」

寄付でしか提供できないサービスがある

ウォーターエイドが日本を含む先進国での展開を加速している理由の一つがファンドレイジング(寄付等の資金を集めること)です。なぜ寄付を集める必要があるのか、単刀直入に聞いてみました。

「理由はとてもシンプルで、寄付が増えればそれだけ活動が広がり、水と衛生設備を利用できるようになる人が増えるからです。サービスを提供してその受益者から対価を受けることのできる形態の組織もあると思いますが、私たちの行っている活動は、それに対して対価を受けるという性質のものではありません。寄付者のサポートがなければ、私たちは活動を継続していくことができなくなってしまいます。寄付は本当に重要な財源です」

途上国における水と衛生に関わる支援に限らず、例えば先進国における子どもの貧困という問題についても、子ども自身が何らかの支援サービスの対価を支払うことができないという意味で同様のケースが確実にあります。

atlas2_07WaterAid/GMB Akash/Panos

受益者に対価を請求できないタイプのサービスをNPOが提供していくためには、受益者の「代わりに」対価を支払う寄付者の存在が不可欠です。「NPOも稼いでなんぼ」という意見を聞くこともありますが、サービスの性質上直接的に「稼ぐ」ことができない場合もあることを忘れてはいけないと思います。

「自分たちと遠い国の問題と思えるかもしれません。でも、普段口にしているコーヒーも途上国の農業用水がなければつくることはできないように、途上国の水と衛生の問題は私たちの普段の暮らしと密接につながっています」

世界のすべての問題を自分ごととして考えることはとても難しい、寄付をするとなると尚更かもしれません。でもまずは知ることから。もっと多くの個人が自分なりのポリシーに沿って現場でがんばるNPOを応援する時代をつくっていきたいと改めて思いました。高橋さん、立花さんありがとうございました!がんばりましょう〜!

WaterAid Japan寄付ページ

【アトラス日記の過去記事はこちら】
vol.1 獣害対策の最前線:NPO甲斐けもの社中

SmartNews ATLAS Program